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最高裁判所第二小法廷 平成9年(行ツ)90号 判決

福井市四ツ井一丁目一四番五号

上告人

東工シャッター株式会社

右代表者代表取締役

佐々木義一

右訴訟代理人弁理士

戸川公二

東京都新宿区西新宿二丁目一番一号

被上告人

三和シャッター工業株式会社

右代表者代表取締役

高山俊隆

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行ケ)第二六〇号審決取消請求事件について、同裁判所が平成八年一一月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人戸川公二の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成九年(行ツ)第九〇号 上告人 東工シャッター株式会社)

上告代理人戸川公二の上告理由

第一点 原判決には、判決の結論に影響を及ぼすこと明らかな法令違背がある。

実用新案法第三条第二項は当該出願前に公知であった技術から「きわめて容易に考案することができた」考案のみを進歩性を欠如したものとして保護の対象から排除しているところ、原判決は同条項における「きわめて容易に」の実体的意義の解釈を誤り、本願考案に実用新案法が要求する以上の高度の進歩性を求めたものであって、民事訴訟法第三九四条(法令違背)に該当する。

そもそも、実用新案法が保護の対象とする考案については、特許法が保護対象としている発明とは異なり、国の技術水準を積極的に向上させる資質を備えているか否かということよりも、寧ろ既成の技術と技術との間に存する隙間を埋め既成物品の実用性や利用性を増進させて国民生活ないしは産業技術を充実化させ得る資質の有無が重視される。このことは、特許法が保護客体である“発明”を「自然法則を利用した技術思想の創作のうち高度のものをいう」(特許法第二条第一項)と定義して「創作の高度性」を発明の成立要件としているのに対し、実用新案法では保護客体である“考案”を単に「自然法則を利用した技術的思想の創作をいう」(実用新案法第二条第一項)と定義して「創作の高度性」を考案の成立要件から外し「創作の高度性」の有無を問わないことからも明らかであり、其処に既成の技術と技術との間に存する隙間を埋めて既成物品の実用性や利用性を増進できる考案(技術的創作)の保護・利用を促進せんとする実用新案法固有の法意の発現が見られる。特許法と同じく新規技術の保護と利用を目指しておりながら、実用新案法が同法第三条第一項各号列記の公知技術に照らして、当業者が「きわめて容易」に予測できる考案だけを進歩性のない技術として特に保護対象から除き、社会的に保護に値しない考案として実用新案権付与の対象から排除しているのも(同法第三条第二項)、その当然の帰結である。換言すると、実用新案法は、既成の技術と技術との間に存する隙間を埋めて既成物品の実用性や利用性を増進させ得る考案が多数出願され実施されることを通じて国民生活を充実させ、かつ、そのような考案が多数提案されることにより産業社会の技術が成熟して産業の発達が招来されることを期待しているのであって、其処にこそ、特許制度とは別に実用新案制度という法的性格の近似した技術保護制度を特設した並立の意義を見い出すことができるのである。

それゆえ、実用新案法第三条第二項の適用、つまり出願された考案の進歩性の有無を判断する際の当該考案の内的要素を成すところの目的(産業上の利用分野と技術的課題)、構成(課題解決の手段)、および効果の予測可能性の有無を認定する場合においては、物品の実用性または利用性の増進の有無、および当該考案の出願前における公知物品との間に存する技術上の具体的差異が重視されなければならないのである。

そして、原判決をした東京高等裁判所第六民事部自身も、平成元年一二月二六日言渡しの平成元年(行ケ)第四〇号判決(以下、「留袖判決」と略称)では、「実用新案は、『自然法則を利用した技術思想の創作』(実用新案法第二条第一項)であれば高度のものであることを要しないのであって、その着想に格別のものがあり、しかもその構成によって……優れた作用効果を奏するものである以上は、第一引用例ないし第四引用例の記載事項をすべて組み合わせれば本願考案の構成を得られるという理由だけで、本願考案は当業者にとってきわめて容易に考案することができたというべきではない」と判示しているのであり、実用新案の進歩性判断基準を示したリーディングケースともなっているのである。

しかるに、原判決は、総理する裁判長も同じ東京高等裁判所第六民事部であるにも拘わらず、先の留袖判決において自ら示した実用新案法第三条第二項の解釈とは大きく齟齬矛盾しているから、判決の結論に重大な影響を及ぼすこと明らかな法令違背を冒しているものと云わねばならず、しかも従前の判例法(前掲の東京高裁民六:平成元年(行ケ)第四〇号判決のほか、例えば、東京高裁民一八:昭和六一年(行ケ)一二五号判決「アイアンクラブセット事件」、東京高裁民一八:昭和六一年(行ケ)一二六号判決「ゴルフクラブのアイアンクラブセット事件」、東京高裁民六:昭和六二年(行ケ)一七〇号判決「波形スレート屋根用樋受金具事件」、東京高裁民六:昭和六一年(行ケ)一三二号判決「ボール・ソケット継手事件」など)に違背し、さらには実用新案法第三条第二項の適用そのものが公平を失しているから、憲法第一四条にも違背する。

(1) まず原判決は、本件考案と引用例1(実開昭五六-二二三八四号公報)の相違点が“進退引率ドライブ手段の構成”の有無にあると認めたうえで、「審決は、引用例3及び4(実公昭五三-二九二五号公報、及び特公昭五六-五九四号公報:上告人にて挿入)記載の考案、発明が有しないと認定した『コンベアを先頭に位置せる戸片の引手框に連繋せしめ』る構成は、結局、折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎないものであって、引用例1記載の考案に引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを適用するならばもたらされる構成にすぎないことを看過」したものであると認定判断する(判決書:四二頁二~七行)。

しかしながら、右の理由に基づく原判決は、既成の技術と技術との間に存する隙間を埋めて既成物品の実用性や利用性の増進に役立つ考案の奨励を通じて産業社会の技術を成熟させ国民生活の充実化と産業の発達を図ろうとする実用新案制度の目的ならびに実用新案法第三条第二項の趣旨に反するものと云わねばならない。

即ち、引用例3および引用例4に記載の折畳扉にあっては、判決書添附の別紙図面(3)記載の第5図および同判決書添附の別紙図面(4)記載の第6図に明示されているとおり、何れも最終端の扉の扉面上位中心に扉に対して回動自在にスラスト軸受されたプーリーにエンドレスのワイヤーロープを一巡巻嵌させて、前記ワイヤーロープをモーター減速機で循環運動させる構成を採用したことによって、最終端の扉面を回転させ、これを契機として各扉面も指方向を変転させて、各扉に角度変更させてから扉全体を開放させようとする方式を採用したものであって、「従来の折りたたみ扉は電動駆動式のものはなく、また折りたたみの方法もあらかじめ少し折りたたんだ状態にした後、直線的に引張って駆動するものであるため、構造的に自動化が不可能であった」という問題点を解決することを技術的課題としている。なるほど、本件考案も確動的に滑らかに開閉できる電動開閉式折畳戸を提供しようとした技術的課題の面においては一部共通する部分も認められるが、その解決手段には顕著な差異があるのである。

まず、引用例3および引用例4にあっては、「従来の折りたたみ扉は……、直線的に引張って駆動するものであるため、構造的に自動化が不可能である」(引用例3:第一欄二六~三〇行)と電動で戸片を直動的に押引する方式では折畳戸全体を確動的に開閉させることはできない事実をハッキリ明示して直動押引方式による折畳戸の電動開閉を断念した経緯が明記されており、この事情は引用例3の出願に先立って同じ出願人(訴外「松下電工株式会社」)が出願した引用例4記載の電動折りたたみ扉においても全く変わりがないのである。

しかるに、原判決は、右のごとき重大な差異の存在を無視し、「折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎない」といった牽強付会の論理操作を施すことによって、「引用例1記載の考案に引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを適用するならばもたらされる構成にすぎない」との認定判断を為し、本件考案の進歩性を否定する結論を誘導している。換言するならば、「引用例1記載の考案に引用例3及び4の考案、発明を適用する」(判決書四二ページ六~八行)ことが出来ないことは引用例3および引用例4の記載から明らかであって、引用例3および引用例4では戸片の直動押引方式による電動開閉式折畳戸は完全に断念されて、直動押引方式とは全く別の課題解決手段として“最終端の扉の扉面上位中心に扉に対して回動自在にスラスト軸受されたプーリーにエンドレスのワイヤーロープを一巡巻嵌つまり滑り係合させて、同ワイヤーロープをモーター減速機で循環運動させる構成”を採用していることが明白であるにも拘わらず、右のように恣意的とも云うべき牽強付会の論理操作によって誘導された認定判断に基いて本件考案の進歩性を否定したことは実用新案法第三条第二項の規定に明らかに違背する。

何となれば、本件考案は「……、折畳戸の引手框上端に直列一対の吊車を配設してハンガーレールに対して前後にペアで一体的に確動的に進退移動するように構成し、このペアの吊車を電動コンベアに連繋させることによって引手框戸片を前進または後退ドライブさせるという確動機構を採用しているので、この引手框戸片の動きに従動して進退移動される各構成戸片も必然的に忠実に追随し、結局、折畳戸全体としての開閉動作が頗る円滑な確動性に富んだものとなり、従来の電動開閉式折畳戸のように開閉に支障が生ずる憂いも皆無になる」(甲第二号証:六欄二~一三行)という従来類例を見ない『円滑確動開閉効果』を奏し、

さらに、「従来において電動開閉式折畳戸が通有していた開閉動作上の弊害や難点が完全なまでに解消でき……、機構的にも組立作業の面でも些程の複雑化を伴わないので、安価に製作することが可能」(甲第二号証:六欄一四~一八行)といった『実用性と経済性の両立効果』を発揮するものであるところ、

引用例1~4の何れにも、本件考案における前記『円滑確動開閉効果』および『実用性と経済性の両立効果』を満足せしめるものは全く開示されておらず、本件考案の提供する“確動性に富んだ電動開閉式折畳戸”は既成の技術と技術との間に存する隙面を埋めて既成物品の実用性や利用性を増進して国民生活の利便化・充実化に役立つ顕著な効果を奏し得るのであって、産業社会の技術を成熟させることを通じて産業の発達に寄与することは明らかであるからである。

したがって、本件考案の“進退引率ドライブ手段の構成”に対し、「引用例1記載の考案に引用例3及び引用例4記載の考案、発明のコンベアを適用するならばもたらされる構成にすぎない」との認定判断の下に本件考案の進歩性を否定した原判決は、実用新案法第三条第二項の規定の適用を誤っており、判決の結論に重大な影響を及ぼすこと明らかな法令違背を冒しているものと云わねばならない。

(2) 次に、先に挙げた東京高等裁判所第六民事部の“留袖判決(平成元年(行ケ)第四〇号)”は、実用新案法第三条第二項を適用するにあたって、「実用新案は、『自然法則を利用した技術思想の創作』(実用新案法第二条第一項)であれば高度のものであることを要しないのであって、その着想に格別のものがあり、しかもその構成によって……優れた作用効果を奏するものである以上は、第一引用例ないし第四引用例の記載事項をすべて組み合わせれば本願考案の構成を得られるという理由だけで、本願考案は当業者にとってきわめて容易に考案することができたというべきではない」と判示している。

そして、この解釈に従うならば、本件考案における前記“進退引率ドライブ手段の構成”自体が引用例1~引用例4の何れにも記載されていないのであるから、本件考案も当業者にとってきわめて容易に考案することができないものであると判断されるべきであった。

しかるに原判決は、本件考案における“進退引率ドライブ手段の構成”を「『コンベアを先頭に位置せる戸片の引手框に連繋せしめ』る構成は、結局、折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎないものであっで、引用例1記載の考案に引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを適用するならばもたらされる構成にすぎない」として本件考案の進歩性を否定している。先にも説明したとおり、引用例3および引用例4記載の“折りたたみ扉”は、最終端の扉の終端框部分にではなく、何れも最終端の扉の扉面上位中心に扉に対して回動自在にスラスト軸受されたプーリーにエンドレスのワイヤーロープを一巡巻嵌つまり滑り係合させて、前記ワイヤーロープをモーター減速機で循環運動させる構成を採用したことによって、最終端の扉面を回転させ、これを契機として各扉面も指方向を変転させて、各扉に角度変更させてから扉全体を開放させようとする方式を採用したものであって、「従来の折りたたみ扉は電動駆動方法のものはなく、また折りたたみの方法も扉をあらかじめ少し折りたたんだ状態にした後、直線的に引張って駆動するものであるため、構造的に自動化が不可能であった」(引用例3:第一欄二六~三〇行)という問題点を解決することを技術的課題としたものであり、引用例3および引用例4の考案・発明にあっては戸片の直動押引方式による電動開閉式折畳戸は完全に断念して、全く別の課題解決手段として“最終端の扉の扉上位中心に扉に対して回動自在にスラスト軸受されたプーリーにエンドレスのワイヤーロープを一巡巻嵌させて、前記ワイヤーロープをモーター減速機で循環運動させる構成”を採用したものでことは明らかである。

即ち、原判決は、証拠解釈において見落とした事項に関し、“疑わしきは権利者の不利益に従う”との偏った法的信念に基いて本件考案における“進退引率ドライブ手段の構成”に対し、「引用例1記載の考案に引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを適用するならばもたらされる構成にすぎない」と判断したものである。

これに対し、同じ裁判長係で審理判断された事件であるにも拘わらず、前示の“留袖判決”においては、例えば第三引用例(婦人画報社:『図解きもの読本・染と織』第六六頁、第六七頁、第八八頁、第八九頁)の解釈について「第三引用例に図示された『曙染島に飛鶴模様振袖』には、左前身頃の模様は左後身頃の模様よりやや上まで伸びてその左端の部分は左衽に隠れて見えず、左前身頃に続く左衽の部分の模様は左前身頃の模様の更に上方まで続き、その上方は左袖に覆われて見えなくなっていることが認められ、この隠れた部分に模様がないと断定できないから、第三引用例のものは、身頃の上方部分と両袖の上半分とが無地に形成されているとは認めることができない」と認定判断して(特許庁公報『審決取消訴訟判決集(13)』:二六四頁右欄第三一行~二六五頁第二行参照)、書証上に具体的に明示が無い事項については疑わしくても権利者(実用新案登録を受ける権利の主体たる出願人)の利益に従うようにとの穏当なる解釈を示しながら「……優れた作用効果を奏するものである以上は、第一引用例ないし第四引用例の記載事項をすべて組み合わせれば本願考案の構成を得られるという理由だけで、本願考案は当業者にとってきわめて容易に考案することができたというべきではない」と結論付けているのである。しかして、原判決においては、引用例3および引用例4記載の“折りたたみ扉”が「従来の折りたたみ扉は電動駆動方法のものはなく、また折りたたみの方法もあらかじめ少し折りたたんだ状態にした後、直線的に引張って駆動するものであるため、構造的に自動化が不可能であった」(引用例3:第一欄二六~三〇行)という問題点を解決することを技術的課題としたものであり、引用例3および引用例4の考案・発明に関しては戸片の直動押引方式による折畳戸の電動開閉は完全に断念していたことが当該引用例の記載から明らかであったのに、これを見落として本件考案における「『コンベアを先頭に位置せる戸片の引手框に連繋せしめ』る構成は、結局、折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎない」と権利者には不利益な取り扱いをなし、本件考案における“進退引率ドラトブ手段の構成”に対して、「引用例1記載の考案に引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを適用するならばもたらされる構成にすぎない」との事実に反する認定判断をして、本件考案の進歩性を否定する結論を導いているのである。

しかしながら、引用例3および引用例4の“折りたたみ扉”は、何れも、最終端の扉の引手框の上端部ではなくて、最終端の扉の扉面上位中心に扉に対して回動自在にスラスト軸受されたプーリーにエンドレスのワイヤーロープを一巡巻嵌つまり滑り係合させておいて、そのワイヤーロープをモーター減速機を介し循環運動せしめることによって、各扉の両側縁をフラフラと変転させて折り畳んで扉全体を開放しようとするものであり、先頭に位置する戸片の引手框の上端部に装着された直列する前後一対の吊車にコンベアを連繋する構成を採用したことによって、牽引機関車に引かれる列車の如く、戸片を確動的に進退直動させて戸口を電動開閉可能にした本件考案とは、開閉の原理において全く異質であって、もともと、本件考案の進歩性を否定する証拠にはなり得ないものである。

してみれば、本件考案は、右「留袖判決」に判示される実用新案法第三条第二項の解釈(進歩性判断基準)に従えば決して進歩性を否定されることはなかったのに、原判決は結論に影響を及ぼすべき引用例(証拠)の重要な記載事項を見落とし、その見落としにより生じたブライント・スポット部分に対し、“疑わしきは権利者の不利益に従う”かの如き偏った法的信念に基く証拠解釈をして実用新案法第三条第二項の適用を誤ったものと云える。

よって、原判決は、判決の結論に影響を及ぼすべき重要な事項において従前の判例法に違背する重大な過ちを冒していると云うべきであり、また先の“留袖判決”と較べても明らかなとおり、原判決においては国民に平等に適用されるべき実用新案法第三条第二項が不公平に適用されているという意味において、憲法第一四条にも違背していると云わなければならない。

第二点 原判決には、主文の結論に影響を及ぼすべき重要な事項について、理由不備ないし判断遺脱の違法(民事訴訟法第三九五条第一項第六号、同法第四二〇条第一項第九号)がある。

(1) 原判決は、上告人(原審:被告)が主張陳述した事項を否定して、特許庁が平成六年九月一六日にした審判平六-一八四一号事件の審決を取り消すにあたり、本件考案と引用例1(実開昭五六-二二三八四号公報)との相違点が“進退引率ドライブ手段の構成”の有無にあると認めたうえで、「審決は、引用例3及び4記載の考案、発明が有しないと認定した『コンベアを先頭に位置せる戸片の引手框に連繋せしめ』る構成は、結局、折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎないものであって、引用例1記載の考案に引用例3及び引用例4記載の発明、考案のコンベアを適用するならばもたらされる構成に過ぎないことを看過」したものであるとの認定判断をしている。

しかしながら、本件考案における“進退引率ドライブ手段の構成”と引用例3および引用例4に記載された“電動開閉式折りたたみ扉”との電動開閉機構との差異は、折畳戸の種類の相違から生ずる単なる構造上の微差ではなくて本質的な重要な相違点である。

何となれば、引用例3および引用例4記載のものにあっては、先頭に位置する扉を動かす手段は、最終端の扉の引手框の上端部ではなくて、最終端の扉の扉面上位中心に扉に対して回動自在にスラスト軸受されたプーリーにエンドレスのワイヤーロープを一巡巻嵌つまり滑り係合させ、そのワイヤーロープをモーター減速機を介し循環運動せしめることによって、各扉の両側縁をフラフラと変転させながら扉全体を折り畳みながら戸口を開放させようするものあって、先頭に位置する戸片の引手框の上端部に装着された直列する前後一対の吊車にコンベアを連繋させることによって、牽引機関車に引かれる列車の如く、戸片を確動的に進退直動させて戸口を電動開閉可能にした本件考案とは、開閉原理においても、作用効果の点においても顕著に相違しているからである。

原判決は、右に述べたように、本件考案と引用例3および引用例4記載の考案・発明との間に、構成の面でも作用効果の面でも顕著な差異が厳然として存在しているのに「折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎない」と認定し、しかも引用例3および引用例4の記載より右認定判断に至った合理的理由を全く示していないのであるから、民事訴訟法第三九五条第一項第六号に規定される理由不備の違法があると云わねばならない。

(2) 次に、引用例3の第一欄二六~三〇行には、「従来の折りたたみ扉は電動駆動方法のものはなく、また折りたたみの方法も扉をあらかじめ少し折りたたんだ状態にした後、直線的に引張って駆動するものであるため、構造的に自動化が不可能であった」という事情が記載されてあり、この事情は引用例3の出願に先立って同じ出願人(訴外「松下電工株式会社」)から出願された引用例4記載の電動折りたたみ扉においても変わりがないことは明らかである。

しかるに、原判決は、引用例3における右記載および引用例4における右事情に対し何らの判断も為さず、安易に「『コンベアを先頭に位置せる戸片の引手框に連繋せしめ』る構成は、結局、折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎない」と謂れなき認定をして本件考案の進歩性を否定しているが、そのことは民事訴訟法第四二〇条第一項第九号に規定される判断遺脱の違法に該当するものと云わなければならない。

第三点 原判決には、判決の結論に影響を及ぼすべき重要な事項について経験則に反した証拠解釈を誤り、および採証の法則に違背した違法がある。

およそ、特許庁の審決の違法性を審理する審決取消訴訟において裁判所が当事者の提出した証拠の解釈ならびに採証する場合においては、経験則ないし論理則に準拠して合理的に審理判断しなければならないところ、原審は左に述べるように自由心証主義の範囲を逸脱して予断に基づく恣意的な証拠解釈をして採証を誤り、実用新案法第三条第二項を適用し主文の結論を誘導しているから違法である。

即ち、繰り返し指摘してきたとおり、引用例3の第一欄二六~三〇行には「従来の折りたたみ扉は電動駆動方法のものはなく、また折りたたみの方法も扉をあらかじめ少し折りたたんだ状態にした後、直線的に引張って駆動するものであるため、構造的に自動化が不可能であった」という事情が明記されてあり、この事情は引用例3の出願に先立って同じ出願人(訴外「松下電工株式会社」)から出願された引用例4記載の電動折りたたみ扉においても変わりがないこと明らかであって、先頭に位置する戸片の引手框の上端部に装着された直列する前後一対の吊車にコンベアを連繋させることによって、牽引機関車に引かれる列車の如く、戸片を確動的に進退直動させて戸口を電動開閉可能にした本件考案とは、開閉の原理においても、作用効果の点においても顕著な差異がある。

しかるに、原判決は、本件考案は進歩性を缺欠しているとの予断があったのか、「審決は、引用例3及び4記載の考案、発明が有しないと認定した『コンベアを先頭に位置せる戸片の引手框に連繋せしめ』る構成は、結局、折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎないものであって、引用例1記載の考案に引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを適用するならばもたらされる構成に過ぎないことを看過」したものであると、引用例3および引用例4の記載から明らかな技術的課題の差異、作用効果の差異を無視して論理則に反した非合理的な認定判断をして、本件考案の進歩性を否定した結論を誘導しているけれども、このような証拠の解釈ならびに採証は自由心証主義の範囲を逸脱するものである。

したがって、原判決には、判決の結論に影響を及ぼすべき重要事項について経験則ないし論理則に反した証拠解釈の誤りがあり、かつ、採証の法則に違背した違法があると云わなければならない。

以上

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